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手の官能

思えばヒトの手ほど官能的なものはない。体の一部でありながら、顔のように露出している上、巧妙自在な動きをする。ロボット工学がどんなに進んでも、人間の手の動きには到達できぬほど、繊細で微妙な如き……。力の入れ具合ひとつで、破壊の道具にも、快楽の道具にもなるのが、人間の手なのである。そのせいだろうか。男というのは(女もそうだが)、顔にもまして、手にむらむらするもののようだ。『源氏物語』の光源氏は、死んだ愛人、夕顔の忘れ形見である玉鬘を引き取るが、このなさぬ娘(父は光源氏の親友頭中将)の美貌に感極まり、思わず手を握ってしまう。その時の玉鬘の“手つきのつぶつぶと肥えたまへる、身なり肌つきのこまかにうつくしげなるに”(手がぴちぴちと肉づきが良く、体つきや肌がきめこまかで綺麗だったので)光源氏は我慢できなくなって、服を脱いで横に寝るところまでいくのだが。玉鬘が嫌がって泣くのが哀れなのと、自分たちの関係を思うと自制心が働いて、それ以上のことには及ばない。光源氏も数えで三十六歳(玉鬘は二十二歳)。位も高くなれば、そうそうわがままな振る舞いもできないものだが。時は四月の衣更えの季節。今でいう五月から六月のじめじめした時候だ。衣更えで薄着になって、肌の露出が増えていた上、玉鬘の手もしっとりうるおっていたのだろう。
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